コードダジュールの絵になる男たち

2008.04.22 Tuesday 19:02
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    モナコを抜けてニースへ。空は抜けるような青空だ。



    狭い切り立つような崖にしがみつくように立ち並ぶ豪邸、ヨットハーバー、そして翌月に開催を控えるF1グランプリのゲート。
    高級車がパレードのように行きかうカジノ前のロータリーに面したカフェ・ド・パリのテーブルで、いったいなぜ、私はこんな街にいるのだろうと、途方にくれていたモナコの2日間。


    モナコの息苦しさから逃れるようにSNCFに乗り、たどり着いたのは地中海屈指のリゾート地、ニースだ。虚栄や羨望が、金メッキとフリルをまとって街中を彩っていたモナコに比べ、ここニースの海岸線は屈託のない「観光地」の気安さに満ちている。



    汽車の形をした観光バスが行きかい、南仏プロバンス風のみやげもの屋が軒を並べ、テラス席ではガイドブックを広げた老若男女がピザやムール貝をつつきながら、ばら色のワインを飲んでいる。

    でも、一歩旧市街に足を踏み込めば、コートダジュールという名の夢の保養地とは一線を画する、別の世界が広がっていることを知ることになる。
    トリノ条約でフランス領になったここニースは、1860年まではサルディニア王国というイタリア領だった。旧市街には、こんな当時のイタリアの色彩と空気感が漂う不思議な空間が、迷路のように広がっているのだ。



    イタリアの都市の裏側に漂う、あの独特な空気感は何なのだろう。

    パリのそれとも、ドイツのともスペインのそれとも違う。イタリア独特の明るい太陽の色彩をまといながら、いつもどこかに「影」がつきまとう街の気配。
    情熱や危険な香りをはらんだ影を内包しながら、昼下がりの街角にはしっとりと生暖かさを含んだ倦怠感が漂っている。そんな旧市街をあてどなく歩いていると、時間や空間の感覚を一瞬なくしてしまうような錯覚に陥る。

    ニースは、表向きはリゾート客に柔和な顔を見せているけれど、一歩旧市街に入り込むと、イタリアの都市独特の空気感が「観光客であるお前の好きにはならないよ」「そう簡単に手の内を見せてなるものか」と強烈な意思をもって挑んでくる。こんな「影」を抱き合わせたような街が、私は心底好きだ。

    周囲に熱烈に薦められて足を運んだハワイのマウイ島がつまらなかったのも、世界一清潔な街だと一押しされてでかけたスイスのジュネーブが退屈だったのも、きっとそこが私にとっては「ぺっかりと影のない、清潔で美しく安全な場所」に映ったからなのかもしれない。ディズニーランドが苦手な私にとって、影のない場所はしみじみ居心地が悪いのだ。

    ところで。
    そんな「表向きは柔和なのに、手ごわい」都市には、いかにもそんな都市に似合う絵になる人が存在する。街のたたずまいが、人のたたずまいも作る。だから、そんな人を街の風景に中にみつけると、うれしい。なんだか得した気分だ。むふふ、とほくそ笑んで、こっそりとカメラに収める。ごめんね、ちょっとだけ。自分で楽しむだけだから。



    人の中にも、光と影は共存しているもんだ、と思う。影だらけの人というのも怖いものだけど(笑)、ではぺっかりと影のまったくない明るさがいいかというと、そういう人とはしばらく一緒に過ごすうちに、私は逆にどうにも居心地の悪い不安を感じてしまうような気がする。歴史を重ねた影をいい塩梅に抱き合わせて共存している人のほうが、人間くさくて信用できるんじゃないか、なんて思ったりもする。
    で、そんな風にいいころあいにかっこよく影を内包できるような歳の取り方を、私もまたしてみたいものだ、なんて思うのだ。



    ニースの街に帳がおりて、紺碧の海が深い闇に包まれ始めるとき。風景は海の色をまとって、Cote d’azur「碧い海岸」の名の通り、街全体が碧い碧い姿に変わり始める。碧い闇を背景に、ネグレスコホテルとカジノのネオンが長い夜に観光客をいざなうころ、海と空の境もわからなくなった海岸線にはぽっかりと月が浮かんでいる。



    フランスとイタリア、観光地と旧市街、光と影。そんな二つの顔を持つニースは、もういちど歩いてみたい街のひとつだ。月並みだけど、でもやっぱりコードダジュールって、すごい場所であったのだ。そんなニースのおいしいお話は、またいつか。
    category:ヨーロッパ旅歩き | by:武蔵野婦人comments(2) | - | -
    Comment
    コートダジュールに降り注ぐ鮮烈な陽光。
    そこには必ず深い影がつきまとう。
    街にも人間にも、陰と陽から生まれるコントラストが、
    奥行きをもたらす。
    南仏はただのマダムな土地ではない。
    人が生活の場としてきた、独特の癖のようなものが
    しっかりとある。
    そこいらへんのリゾートとは一線を画す空気感。
    表層をひっぺがえしたところにある魅力。
    武蔵野婦人の旅の印象には、常に強い共感を覚えている。
    また、新たな印象を書き加えてください。




    • toto
    • 2008/04/23 12:57 AM
    totoさん、こんな更新の不定期な、長い長い文章のブログにコメントくださって、ほんまありがとうございます!
    うれしいです。

    そうそう、負の部分を健康的に抱き込んでいる街が私は好きです。光と影のバランスが崩れている場所は、居心地が悪いもんですよね。

    またぼちぼち書いていますので、遊びに来てください。ありがとうございました!
    • 武蔵野婦人
    • 2008/05/01 11:06 AM








       

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