炎上騒ぎの後ろにある、今の「伝える仕事」の違い何? ってつらつら考える

2019.05.21 Tuesday 12:30
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    この写真は私がフランスで小さな個展を開いたとき、思いがけず新聞にでっかく載ってびっくりしたよ! という紙面。

    ギャラリーの持ち主が気を聞かせて記者さんにアポ取ってくれていたんだけど、小さな案内記事だと思っていた私は、街を歩いていたら、「日本のアーティストが来て個展を開いている」という大きな見出しの看板がいっぱい貼られていて驚いたんだった。

     

    ありがたい。

     

    が、このめでたい記事には、一つのエピソードが隠れている。

    立派な記事の最期に添えられた情報の、ギャラリーの場所が間違っていたんだよ。

    住所が!

     

    掲載日、浮足立った感じでフランスの友人たちが、「新聞出た出た」と喜んでくれていた中

    突如一人の顔が曇り

    ひそひそ話が始まった。

    ひそひそ声は次第に伝搬し、最後にはなんともいえぬ空気が場を満たしはじめ

    早口のひそひそフランス語が聞き取れない私は、何が起きたのかもわからずポカンとしていた。

     

    気づいた一人が、わかりやすい言葉で説明してくれた。

     

    私が個展をしたギャラリーの持ち主は、以前違う人だった。

    その場所を譲り受けた今の持ち主が私の個展を実現させてくれたのだけれど

    それまでずっと仲が良かったはずの前の持ち主と

    なぜその人が自分と関係を断とうとしているのかわからないまま、

    あるときを境にまったく連絡が取れなくなった。

    以降、関係が途切れたまま。連絡をしてもナシのつぶてで現在に至るのだそうだ。

     

    その人は現在、まったく違う場所にアトリエとギャラリーを構えている。

    私の個展の場所は、その人のギャラリーの住所が書かれていた。

     

    「とても残念。この記事を見てでかけてもそこは違う場所。

     でも彼女は聞かれても知らないって言うに違いない。絶対に私のギャラリーでやってるってことは言わないと思う」

    ………。

     

    取材に来た記者の人は、前の持ち主の頃からその人のこともこのギャラリーもよく知っていて何度も来ていたから、反射的に今のその人の住所を書いてしまったんだろうという結論に、この日は至った。

    ちゃんと今のオーナーに取材をしつつ、場所は前のオーナーと紐づけて記事にしちゃった。なんというフリーダム。

    とはいえ意図的に住所をすり替えたのだとしたら、とっても嫌な気持ちになるはずだから、その解釈は正しいのだと思う。

     

    というわけで、せっかく紙面になったけど、それを読んで来たいと思ってくださったうちの何人かはたどり着けなかったろう、というお話。

     

     

     

    なぜこんなことを思い出したかというと、「伝える」という仕事について、最近もやもやする事があったから。

     

    朝、テレビをつけたら見出しのところに

    「佐藤浩市、首相を揶揄して炎上」と出ていた。

     

    なんのこっちゃと思っているうち、その見出しは一日中テレビに表示され続け

    ネットニュースも「佐藤浩市炎上」で埋め尽くされた。

     

    何をやっちゃったん? と内容を追いかけだしたら、まあなんというか

    それは首相揶揄でも、大々的な炎上でもないじゃんよ、と私には思えることで、

    炎上させている人たちが主語の見出しにもなり得る内容だった。

    中身を精査すればこんな見出しにならないはずなのに、なぜ、こんなおかしなことばかり起きるんだろう。

     

     

    ほんで思ったんぢゃった。

    ああ、そうか。

     

    どっかに書いてあることを拾ってきてつなぎあわせたり、

    どっかで騒ぎになっているよー、誰かがツィッターでこう書いたよー

    って、自動的に大量に記事を生成していくことが仕事という新しい職業がWebの世界では定着してきた今

     

    ほんの数人が炎上コメントの応酬している場面を切り取って

    炎上!

    ってただ書けばよく

     

    別にその背景にある真実を精査する必要もなく、矛盾をみつける必要もなく

    違うでしょ、と言われたら

    あ、そうなの? 自分がそう言ってるんじゃなく、ただそこにそう書いてあっただけで

    現に「炎上」している事実はありますよね?

    でぜんぜんオッケーな世界が、今はテレビにも広がっているわけなのかー

     

    と思ったら妙に納得できたんじゃった。

    事実の裏をきちんと取るとか、表層で見えているもの以外の視点を探るとか

    そういう視線は、「伝える」という仕事の中で過去のものになりつつあるのかな。

     

    ジャーナリズムの世界ではまだそれはきちんと稼働しているところも多いけれど

    それを見たり読む人の数は減っている。

     

    私はコラムニストという仕事をしていて

    それはなにか得意分野の中でテーマを与えられ、それについての情報や、個人の考え方や価値観を書いてよしとされる仕事だ。

    さらにテーマ設定まで自由な、エッセイストという仕事もある。

     

    一方で、ライターと呼ばれる仕事は、与えられたテーマを忠実に取材して文章にして、個人の考えや価値観はオブラートに包む必要がある。そこにはクライアントがいたり、スポンサーがいるから、その意に反した記事は書けない。

     

    ジャーナリストや記者など報道に携わる人達は、クライアントやスポンサーなどの経済軸に左右されず、偏った価値観を持ち込まずに中道の報道をしなくていはいけないのだけれど

     

    でも、クライアントやスポンサーがいない分

    常識や道義や正義はゆがめられることがなく

    与えられたテーマの中だけでなく、隠れたり見えないテーマを探し出すことができるはずの仕事だったんじゃないのかなあ。

     

     

    今の伝える仕事は

     

    クライアント(政権も大きなクライアント様だ)の意向に左右されながら

    道義や正義のフィルター(なんてものがあったのかどうかも今やわからない)なんてものはかけずに、与えられたテーマを伝え

    通りすがりに起こっているネットや別メディアで目にしたことを拾って横流しすることを、「テーマ探し」としつつ

    個人の考えや価値観はなるべく表出させない(なぜなら簡単に炎上するから)

     

    悲しい状態になっとる。

    偉そうに何を言うか、と思う人もいるかもだけど

     

    でも、ほんの片隅だけど「伝える」仕事に携わってきた自分からすると

    とてもとても

    気持ちがもやもやとすることが増えた。

    ぼやいてても仕方ないんだけど。

     

     

    とにかく

    炎上してまっせ、と小学生が先生に言いつけるみたいな報道は

    本当に無くなってほしいと思う今朝なのだった。

    広い世の中で、ほんの一部がぼやいていることを全国区のテレビに流し続けることに何の意味があるんだろう。

    ほんと、かっこ悪い。

     

     

    そしてギャラリーの住所も、ちゃんと取材で確認して掲載しようね。

    (と、最初の写真に戻る)>笑

     

    それでも来てくださって、いろいろ買ってくださったお客さんもいっぱいいた。

    感謝なのだ。

    またフランスでやりたいなーって思ってたら、ちょろりとオファーのようなものがちょうど来て

    ぼやきつつも、気分のよい今日なのでした。

     

    さて、気を取り直して、機嫌よく一日をはじめよう。豪雨だけどね。

     

     

     

     

     

     

     

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