パリのルリユールの工房と、フランス人と本との関係について。読書家と愛書家ってのは違う生き物なのかも。

2016.07.29 Friday 06:29
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    そういえば以前、節約アドバイザーの某さんが雑誌のコーナーで、一人暮らしの女性に対して「「何の読書家アピールか知らないけど、本棚が多すぎます! どうせ1回読んでおしまいなんだからサッサと処分するべき。」と発言して、読書好きな人から総スカンを食ったことがあった。

    http://togetter.com/li/775102

     

    この時の総スカン具合は、それまでのライフハック系の御仁の「本は読んだらすぐブックオフへ」とか、「買ったらすぐ分解して自炊してデジタル化」なんて発言を読んで元気すっかりなくなっちゃうよ、って気分だった私にとっては、なんだかちょっと救われた気になったことを覚えてる。

    部屋に本があっちゃいけないのか。

    本に家賃払うのはバカモノなのか。

    読み終わった本を後生大事にもってちゃいかんのか。

     

    けっ。

     

     

     

    そんな気分でフランスに来ると、そりゃまあ、どこの家にも書棚があることに驚いたりするわけなんだけど、この書棚というのがくせ者で、私たちが普段やってるように、買った本をサイズ別に分類するぐらいで並べておくってのとはちょっと違って、どうやら書棚に並ぶ本のタイトルに大きな意味がありそうだな、ってことに気づいたりする。

     

    その本の選択に、意思を感じる。

    それもかなり、強烈な。

     

     

    どうやら、本は読む物であることのほかに、生活空間に存在させるものであり

    本という存在そのものが、アートや芸術の一部であり、自己表現である、ということみたいだ。

    「読む」ことのほかに、置くこと、愛でること、所有することの意味みたいな。

     

    このサイトとか面白かった。

    http://www.seinan-gu.ac.jp/gp/french_trip/2012/2572/

    フランス人と本。

    なかなか奥深い。

     

    どうやら読書家と、愛書家というのは、同じものではないようだ。

     

     

    休日のジョルジュブラッサンス公園の古本市とか行くと、いったい誰がこんな古い本を買うんだ? ってほどの古本がずらりと並んでいる。

    日本だとさしずめ、神保町の古書フェアみたいなことなんだけど、古書の価値が希少本や絶版本ということの他に、装丁も大きな要因となっている。

    そんだけ、こちらの古書の装丁のすごさって、半端ないなーって思う。

     

    なんてことを急に書いているのには理由があって

    今日、フランスのお友達とランチをしたら、これから製本の材料を買いに行くというのである。

    え”? え”? それって、なんとかユールとか。

    確かそういう名前の。。。。。。

     

    「そうそう、ルリユール。フランス語発音にしたら、日本人はすごく発音しにくいやつ」

    relieur。Rが2個も入ってる。ねこみたいに喉をゴロゴロ言わさないと発音できない。難しい。

     

    あまりに楽しそうなので、お願いしてついていくことにした。

    いやー、すごかったー。楽しかった、美しかった、素敵だった。

     

     

    イタリアのフィレンツェあたりでよく見かける手染めのマーブル紙。裏打ちの紙がついた専用の布。

    工具、金具、表紙用の段ボール。

    そして、何よりも意外に感じたのが、一番広いスペースを取って売られている、革の数々。

     

     

    あ、そうか。

    本の表紙って、革なんだ。

     

    日本でもルリユールの教室などがあって、たまに見たりしていたんだけど、それはどちらかというと自分好みの、自分だけの本を作りましょう的なアプローチが多くて、きれいな紙を貼って作っていることが多かった。

    ほでも、そうか、本来は革だったのか。うん。

     

    ここで革を買って、専用のなめし屋さんに出して、本に加工できるように裏をはいでもらうのだそうだ。

    そして中の紙を糸で縫い合わせて、表紙の裏にきれいな紙を貼って、日本の水引みたいな紙の紐で上部を止め、糸の栞なんかもつけて、最後に書名を箔押しする。

    もう、なんか、気が遠くなるような行程。

     

    また、日本ではマダムの趣味の一つともなっているカルトナージュ(きれいな紙を貼って箱を作るやつね)は、本来は希少本の収納のための紙ケースを作ることからはじまったのだそうだ。ということで、カルトナージュ好きな人にも垂涎の紙類が大量にあって、紙好きの自分としては、放っておいたら大量に大人買いをしてしまう危険度抜群の場所なのだった。

     

    去年、ポスターを買い込んでしまったことにより、飛行機で持ち帰るための紙ケースを入手する必要が発生し、そのケースを常にスーツケースを引っぱりながら持ち歩かなくてはならなくなったという苦い経験がなければ、10枚ほどは買ってたかもしれない。

     

    歳を取った分理性もついたので、「大きな紙を買ってはいけない」という心の声に救われた。危ないところだった。

     

    ほんでも、そんなしょうもない事を話しながらも、ものすごく楽しいーとほくほくしていたら

    近くにある彼女が習っていた人のルリユールのアトリエを、覗いてみます? と言うので

    二つ返事でいくいく!と騒いで、連れていってもらった。

     

     

    うわああ、アトリエだー。

     

    1人で街を歩いて、こんな場所に入れることなんてないから

    とにかくもう、連れて来てもらえてありがたい(ってか勝手についてきちゃったんだけど>笑)。

    ちなみに、ルリユールの材料店も、観光客としては入れる雰囲気ではなく、やっぱり実際に作る人がいて、材料を買い求めているということで、お店の人も好意的に受け止めてくれたわけで、こちらも冷やかしでは到底入れる雰囲気ではなかった。

     

    パリには、この手の敷居が高い店がいっぱいあって、私のような気の小さい人間は、なかなか入り込めない場所も多い。

     

     

     

    私のお友達は、きちんとした職業訓練としてルリユールの学校に通って、試験を受けて証書をもらったそうだ。

    職業としてルリユールは存在しているということ。

    ただ、現在は職人として仕事をしていくには、給与は非常に安く、ごくごく一部の有名作家さんだけが、高給を取れるのだとか。

    多くのアトリエは製本だけでは生計が立たず、教室を開くなどして維持されているのだそうだ。

     

    そんで、ルリユール自体も少しづつ減っていて、昔はいっぱいあった工房も、パリでは今は50ほどしかなくなってしまった。

     

    このアトリエを主宰している女性は、手頃な値段だけれど、ていねいに、たくさん仕事をこなすことで製本1本で生計を立てているのだそうだ。この日、アトリエにいたもう1人の女性は、その彼女の作った本や、アマチュア製本家の本への箔押しで生計を立てている。

     

    今まで私が日本で思っていたルリユールというのは、「きれいな本を作る」という印象だったのだけれど

    このアトリエに並んでいたのは、文字通りのルリユール=再び、糸で綴じる、つまり修理を待つ本が多かった。

     

     

    こうした本や

     

     

    きれいい綴じ直された本が

     

     

    書棚に美しく並べられる本に蘇る。

     

     

    工具萌えにはたまらない、箔押しのための道具もたくさん。

     

     

    そして、何世紀も前から使っているというルリユールのための機械もいろいろ。

     

     

    そのままでは打ち捨てられてしまいそうな、古くて汚れたものも

    価値があるものならちゃんと生まれ変わらせる、そのための技術が延々と引き継がれているって、素敵だなあ。

    なんたって、本が大切にされているのを見るのが、私はほんとに幸せでうれしい。

     

     

    大好きな手仕事、職人さんのワザが

    大好きな本に生かされていく。

    こんな幸せな風景があるじゃろか。

     

     

     

    日本では、和綴じの本が工業化ですっかり途絶えてしまい、工業製品としてのブックデザインの立ち位置しか残らなかったとのことだけれど、読むだけじゃなくて、所有すること、生活空間に置くことに意味のある本っていう存在が、もっとあってもいいなーと思った日。最近少しづつ日本でも見直されてきているようで、製本作家さんの名前もちらほら聞くようになったから、これからいっぱい増えていくといいなー。(そしてその人たちがちゃんとその技術で、生計を立てられるといいなー)。

     

    なんでも新しく創り出すのが創作じゃないんだよね。

    修理することも、生まれ変わらせることも、クリエイティブのひとつ。

     

    私はアップサイクルって言葉が好きだけど

    そういうのともまた違う、歴史の重みがぐっと詰まったフランスのルリユールの世界を見せてもらって、ほんとに感動した。

     

    かわいい紙ですてきに製本って方向だけじゃなくって、重厚な革で金箔の箔押しの豪華でハードなタイプのルリユールって、すごくいい。すごく大人な世界。

     

    生活の中に置いておきたくなる本、手に取りたくなる本。

    手のひらにしっとりと、ずっしりと収まる革の感触、革と紙のにおい。

     

    しあわせな午後のひとときでした。

    ほくほくほく。連れていってくれたおともだちに、ほんと感謝です。

     

    ありがとう。

    category:Paris ひとり暮らし | by:武蔵野婦人comments(4) | - | -
    Comment
    面白い!面白い!ルリユールって知りませんでした。素敵!素敵!フランスって素敵ね〜。
    • Ayako Kondo
    • 2016/07/29 9:16 PM
    ayakoさん、ルリユール、日本でもお教室がちらほらあるようですよー。とっても素敵です!
    • 武蔵野婦人
    • 2016/07/30 11:59 PM
    うわぁ...憧れの、パリのルリユール工房だ!写真、みているだけで幸せな気持ちになります。ありがとう
    • snow
    • 2016/08/01 3:37 PM
    snowさん、そうそう、ルリユールですー! 絶対楽しそうだよね。私もすごく楽しみました!!
    • 武蔵野婦人
    • 2016/08/04 3:10 AM








       

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