「2分の動画で十分です」の時代に、実速度の制作動画を流すルイ・ヴィトン展で考えた悲喜こもごもなこと

2016.07.24 Sunday 18:51
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    すごいよ、毎日10時間ぐらい寝てる。どんだけ疲れてたのか。

    「パリ」という名前の空気の温泉に浸かっていると思えば、温泉療養という気がしてきたここ数日。

     

    今日はバカンス突入後の日曜日、さらにはツールドフランスの最終ゴールがシャンゼリゼで行われる日。

    アヴィニヨンの演劇祭に行っている友人によると、昨夜お祭りがある場所での爆破予告があって一時騒然としたそうだ。

    「楽しそうに人が集まっている」ところをテロリストは狙っているんだ、という。

    だから、敢えてそういう場所を選んで出かけない、と思っているんだけど

    でも、そんなパリで昨年同様、セーヌ側沿岸がParis Plage になっているのはある意味すごいなあと思う。

    日本だとすぐ「自粛」となりそうで。

     

    ただ、パリでのテロのあと、現地の友人から

    「日本人が常に地震の恐怖と隣り合わせなのと同様、私たちもテロの恐怖と共存していかなくてはならなくなりました」

    と言われて、へ、それって同じものだったん? と思ったこと、改めて思い出した。

    東京、いま地震多いし。

    うーん、でもそうなん?

     

    わかんない。

    とりあえず今日はあまり出歩かない。パリ温泉で療養する。

    朝から絵を2枚ほど書いた。

    吉本新喜劇を見た。

    洗濯をして、冷蔵庫の中のものを食べた。

    すごく、幸せだ。

     

     

    さて、そんなすっかりゆっくりな時間の中で

    こちらに来るちょっと前に見た展覧会の事を思い出している。

     

     

     

    パリのグランパレで開催されたのち、紀尾井町に来たルイ・ヴィトンの展覧会。

    入場無料。

    でも、そのクオリティの高さに息をのんだ周囲の人たちは多かった。

    いや、すごかったよ。素直に、すごく感動したー。

     

    私はブランド品にほとんど興味はないけれど、ここ数年東京でも開催されているDiorやHermesの展覧会などを見ると、世界的な地位のあるブランドが、文化に対してどういう姿勢でいるのかがよくわかる。

    一部の日本の企業のように、創始者が自分の趣味や税金対策のために買い集めたお宝を並べて入場料を取るようなもんとは根底が違うな、と思う。

     

    パリにあるFoundation Vuittonの美術館は入場料を取るけれど、若手のコンテンポラリーアート作家に広い支援をしていて、それはすばらしいことだなあ、とよく思う。ヴィトンのバッグはぜんぜん好きじゃないけど、やってることはすごい。偉いぞ、ヴィトン。

     

    で、そんなヴィトンの展覧会で、私が一番好きだったのが、最後の部屋にあったビデオの数々だった。

     

    最後の部屋では実際にヴィトンの職人さんが作業している姿を見ることができるんだけど、その横でさまざまなバッグが作られる行程が、ビデオになって流れていた。ただ、延々と職人さんの手元を、俯瞰カメラで撮ってるやつだ。

    物作り大好き人間にとっては、たまらない。

    え、皮そうやって貼る? そこ折り返す? あー、その順番で組み立てる?

     

    もう楽しくて仕方ない。

     

    すっかり動けなくなって、座り込んでずっと見てた。

     

     

     

    それで、やっと気づいたんだけど。

     

     

     

    このビデオ、すべて実速度なんですわー。

    人が作る速度で、ただただ延々と撮られてるの。

    なので、10分ぐらい座り込んでみてても、バッグぜんぜんできないの。

    片側の皮を折り返して貼る、ってところまでがようやく見えるぐらい。

     

    えー? それで最終的にどうなんの?

    完成型はどのバッグになんの?

    なんもわからない。

    いったいいつまでここに座ってりゃいいんだ、と思うと気が遠くなる。

    どっかではしょられるのか、と思って見てるんだけど、ぜんぜんその気配がない。

    とにかく、ただ、作る速度で撮られている。

     

     

     

    いやああ。

     

    感動したね。

    これでいい、と思っているということに。

     

     

     

    これ、おそらく日本の何かの展覧会で、動画撮る会社に依頼したら

    「倍速か4倍速にしないと誰も見てくれないですよ。途中無駄な行程ははしょりましょう。とにかく見てもらうことが大事ですから」

    となるに違いない、と勝手に思う。

    ってか、もうネット上の動画のほとんどがそれでしょ?

     

    「料理レシピ読むの面倒だし、用語わかんない。動画のほうがよくわかる」

    的な。もう、スピードめちゃ早いけど、そんなかでもちゃんと伝わる、みたいな。

     

    いや、それもすごくいいツールだなって思うんだけど

    なんか一事が万事そういうことになってきて、自分の立ち位置が何かよくわからなくなっちゃったな、ってこのところ思ってたから。

    だからヴィトンの動画はうれしかった。

     

     

    私は、「書く」ってことを基本にずっと仕事をしてきていて

    インターネットが普及しだした1990年代後半、それまでの紙媒体での発信ではなかなかできなかったことが、ネットに「書く」ことで大きく広がったことを身を以て体験した世代だった。

    私が選んだテーマは「働きながら育てること」。

     

    なんだか生きにくい、肯定してもらいにくい、とにかく時間なくて大変。

    そんなハードルを、書いて発信して、情報交換し合うことで少しづつ低くして、

    なんかそんなに頑張りすぎることなかったねー

    同じような人いっぱいいたねー

    なんだー、こんな自分のままでいいんだねー

     

    なんてことを確認し合いたかった。

    ただ、そんな思いで「書く」ことを始めたけど、

    そんな自分が社会からありがたいことに認められ出したあとは

    「家事の時短」ってところだけが大きくフォーカスされてしまって

    私は「時短のプロ」になった。

     

    そもそも、「時短」って言う言葉が嫌いだった。

    伝えたいのはそういうことじゃなかったから。

    allaboutのガイドをするようになって、そのコーナーの名前に「時短」がついて

    時代も相まって、なんだか家事のライフハックが専門みたいな捉え方をする人もいて

    そして畢竟

    ライフハックは「アイデア」にほかならないので

    私の仕事は「書く」ことよりも、「アイデアを出すこと」に偏っていくことになった。

     

    仕事をさせてもらったのはすごくありがたくて楽しかったし

    それで子どもも育てられたし

    アイデアを考えるのは嫌いじゃないけど、でも

    どっかで違うところ歩き出してないか? ってよく自問自答してたところに

     

    少し前に来たのが

    「家事の動画コンテンツサイトを立ち上げるためのベースになる動画を作ってくれ」というお仕事。

    いまどきの人は、文字を読みません。

    情報は動画の時代がやってきました。

    でも、動画は見てもらえても2分、最長でも5分が限度です。まあ、5分だと途中で飛ばされます。

    2分前後で完結する時短家事コンテンツ動画を50個ほどお願いしたいです。

    ももせさんがベース作ってくれたら、あとは真似して主婦が自分の情報をアップしてくれるので

    ……。

     

    えっと、家事って両手を使いますよね。

    アクセサリー作りみたいのならわかるけど、掃除や洗濯の動画を、主婦がどうやって撮るんですか。

    そんで、その投稿された動画の著作権や使用権はどう取り決めてあるんですか。

     

    いろいろわからんことが多かったので、お断りしたけど、

    その時心に重く残ったのが

     

    「もう誰も文字読まない。動画も2分が限度」

     

    という言葉だった。

     

    なんか、もうそういうことだったら、いいや、と思った。

    早回しで2分で伝えればオッケ、という動画を撮るためのアイデアを出すことが自分の仕事なら

    もう、いい。

     

     

     

    ここんとこの、そういういろんな気持ち。

     

     

    ヴィトンの映像見て、なんかすごく癒されたんだよ。

    実速度でいい。

    何も解決しなくていい。

    だって、ほんとにその速度でやってんだから。

    で、その速度に意味がある仕事をしているから

    早回しなんてしない。

     

    いろんな意味で、心が動いた。

     

     

     

    そんで、そんな風にしみじみ動画を延々と見ている私の後ろには、何組かの人たちが入れ替わり立ち代わり

    同じ動画を見ていたんだけど

    最初に耳に入ってきた会話が、また、すごくよかったんだ。

     

    「あー、私、今これ見て自分の仕事、すごく反省してる!」

    「なんで」

    「早さが価値じゃないんだよ。この速度でゆっくりと、丁寧に確実に作る。それが大事なんだなーって」

    「ああ、なるほどねー」

    「日本の縫製工場ってさ、もうどんだけ早いかが一番なの。ミシンも早さ競争みたいになっててさ。

     そういうことじゃないよね。あー、もう私今すごい自分のこと反省中ー」

    「うんうん!」

     

    アパレル系の若い女性2人だった。

    いい。

    すごくいい。

    そうだよね、そういうことだよね。

     

     

    しばらくしたら、後ろから聞こえてきたのはこんな言葉。

     

     

    「なんか、すごく効率の悪いつくり方してんだな、ヴィトン」

     

    40代ぐらいの男性だった。

    同じもの見て、感じる内容の違いが面白い。

     

    最後に聞こえたのは

     

    「あ、これあの形のバッグでしょ。これいくら? 30万ぐらいで買えるやつ? 私ちょっと欲しいかも」

     

     

     

    いろいろ、安心する>笑

     

     

     

    だからといって、私、家事や暮らしを「丁寧に時間をかけて、確実にやりたい」と思ってるわけじゃぜんぜんない。

    そもそもが、女性に対してそういうことを言いたがる、形のないプレッシャーに対して

    「そういうことじゃないよね」と「言葉」で伝えたかったのがスタート地点だ。

     

    結局、私がやりたかったことは、時短家事のアイデア出しじゃなくって

    もっと女性が自由に、自分らしく生きるにはどうしたらいいのかな? ってことだったんだと思う。

    家事や育児に対する価値感を、外側から規定されるんじゃなくって

    自分なりに編集して、そしゃくして、やっていけるといいなって思ってるんだと思う。

     

    2分の動画じゃ、それは伝えられない。

    そして、価値感も、早回しでは変えられない。

     

     

     

    そんなちょっと小さくくじけ続けていた自分にとって

    ヴィトンの展覧会はすごく、元気をもらえる展覧会だった。

     

     

     

    おまけだけど、息子がみつけてきた、カメラのライカの動画。

    カメラ本体を磨く作業が、延々と40分の動画に収められている>笑

    「早回し」で伝えられないことを、どうやって伝えていくのか。

     

    それ、動画時代のこれからの大きな課題だな、って思ってる。

     

     

     

    そんなことパリで考えてる日曜日。

    こんなブログを、なんだか読んでくださっている方がいて

    そんな人たちの存在を思うと

    もう、いい、

    って思ってた「書く」という作業を、まだ続けていってもいいのかな、ってちょっと勇気をもらってる。

     

    ほんと、ありがとうございます。

     

     

    今日の朝ごはん。

    何度も言うけど、ほんとに朝ご飯がラク>笑

     

    こないだ講演先で話したら、「やっぱり日本人はごはんじゃないと。私はパンじゃ無理です」

    っていう方がいらしたけど、私はパンでいいので、ほんとラク。

     

    パン、うまい。

     

     

     

     

    category:Paris ひとり暮らし | by:武蔵野婦人comments(2) | - | -
    Comment
    Izumiさん、こんばんは。様々な側面があるからこそ、多岐にわたる魅力満開!(←私には「満開」のイメージが強いの。)のIzumiさんなのだと思います。あまりよくわからないのですが、今は、自分の思惑とは別のところでフューチャーされてしまっているというか、消費されることへの違和感に疲れてしまったのでしょうか。。。「時短」ということでとても役に立ったり助かったりした人達がたくさんいるでしょうから、それはそれで良いことなのだと思います。それとは別に、Izumiさんの文章を読みたい人もたくさんいると思います。ちょうど東京は都知事選真っ盛りなのですが、政治家のように大衆に響きやすい印象的な言葉をポンって一言いうこととは対照的に、Izumiさんのちゃんと長さを持った文章に、心をすっぽりはまる楽しさって良いと思いませんか?
    ちなみに、私もパリだとバゲット派です。
    • Ayako
    • 2016/07/25 10:10 PM
    Ayakoさん、うれしい言葉をありがとうございます。最近になって、講演などで出かけた先で、育児の大変な時代に、私の本で救われたというようなことを言ってくださる方にちらほらお会いすることがあり、自分のしてきた仕事には意味があったんだなー、と思えるようになりました。ありがたいことです。短い言葉でスパッと言うのが苦手で、つい長くなってしまうのですが、読んでくださる方いることに、元気をもらっている気がします。
    • 武蔵野婦人
    • 2016/07/27 4:43 AM








       

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