「保母」「保父」vs 男女とも「保育士」。どっちがジェンダーフリー? ってことをフランス語から考えてみる

2015.08.20 Thursday 22:02
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    8月20日。小雨そぼ降る19度のパリの午後です。

    さて、今日は職業名のお話。タイトルの通り、日本語では「保母」と言われてきた職業の名称は「保育士」となっています。ほか、スチューワーデスは「客室乗務員」に。職業名に男女の言い分けをしないというジェンダーフリーの発想から、そうなったと私は理解しているのですが、それでいいのでしょうか。


    先週、文法の先生(女性)が、そりゃもう楽しそうに、しかし力をこめて
    「いやあ、いまフランス人がとっても熱く語り合ってることがあるのよ。イスラムの戦争とかテロとか、大事なこともいっぱいあるのにしばらくの間、新聞にはこの話題でもちきり。どう思う? こんなことをずーっと長い事私たち議論してんだから」
    とかなり長い事しゃべっていました。手をバタバタ振りながら。

    それ、この手の話題。

    http://next.liberation.fr/sexe/2014/10/07/madame-la-presidente-madame-le-president-une-vieille-polemique_1116741

    もとを辿れば、今のオランド大統領の前夫人でもあったセゴレーヌ・ロワイヤルさんが、エコロジー・持続的開発・エネルギー相に就任した時のこと。

    ジャーナリストが質問をする際に

    “Madame le Ministre"と呼びかけたところ、ロワイヤルさんがにこりと笑って

    "Madame la Ministre" と言い換えたというところに端を発している。


    (画像はこちらからお借りしました。ありがとうございます。
    http://www.closermag.fr/people/politique/segolene-royal-ne-l-appelez-pas-madame-hollande-505118)


    ふぇふぇ、何が違うのか? っていうと、Ministre(首相)にくっついている冠詞が違う。

    le

    la

    フランス語、イタリア語、スペイン語、ドイツ語では名詞の前に必ず冠詞がつくんだけど、その冠詞が男女の性と数、そして格というかなんというか(りんごみたいにひとつづつ数えられるものなにか、水のように不定形なものなのかという違い)、名詞の種類によってくっつける冠詞が違う。

    あともう一つ、職業名はその人が男性か女性かによって、変化する。

    このあたり、日本語にはない習慣だから、最初は慣れなくて苦労するんだけど、話していて冠詞を間違えるとたいてい直されるので、このあたりは言語の大切な中枢を成しているのかもしれん。間違えたときって、日本語だとどういう間違いをしたのと同じように聞こえるのかねえ、ってよくクラスの子と話しているんだけど、適当な例がみつからない。



    しゃて、そんな風に言語の構造に、「男」か「女」かというのががっちりと組み込まれているので、常にそのあたりを気にしながら言葉を構築することになるわけで。たいてい女性の職業は最後のところに e をくっつけるという仕組みになっちょる。
    たとえば、

    音楽家 男 le musicien   ル ミュージシアン
    女 la musicienne ラ ミュージシエンヌ

    学生  男 l’étudiant  レテュディアン
    女 l’étudiante  レテュディアーント
    〜これは名詞の最初が母音なので冠詞とくっついて性別がわからなくなるが、語尾が変化するので聞いてわかってしまう

    一部語尾がeで終わるために、変化させることができないから男女同じっていう職業名もあるけれど、それでもle とla は必ず識別してつけなくちゃならない。ああ、めんどくさい。

    いやさ、でもって最初のロワイヤルさんの発言に戻るわけよ。
    なんで彼女言い直したの? ってところに。


    実はフランス語の職業名の中には、語尾が変化しないものがいくつか例外としてある。

    le chef(英語のボスみたいな意味)
    le journaliste(ジャーナリスト)
    le ècrivant(小説家) 

    この手の職業は、「以前はほぼ男性がする仕事であった」ということを理由に、語尾変化をしないらしい。
    あらいやだ。

    このあたり、ちょい封建的な慣例。
    まあ、でもこの職業名に女性冠詞をつけて使うことは、できる。

    ところが、このla の冠詞をつけることさえ許されていない職業名が

    le ministre
    le president

    ここはアカデミーフランセーズがきっちりと決めており、首相や大統領に女性冠詞をつけることならず! とかなりうるさく固辞しているらしい。



    ほんなわけで、ロワイヤルさんに

    Madame le Ministre

    とジャーナリストは呼びかけたわけです。
    これを、

    いいえ、私のことは Madame la Ministre

    と呼んでくださいな、とロワイヤルさんが言い返したと。


    たったこれだけのことが、スキャンダルとなり、le Ministre なのか la Ministre なのかってことを、かなり延々とこっちの人たちは喧々囂々とやっておる、と。
    ま、それが文法の先生が手をバタバタしながら説明してくれたこと。
    (解釈が間違っていたらごめんなさい。あかんおまえ! ということがあったら教えてくださいな)。


    ご存知の通り、ロワイヤルさんおよびその周辺の人たちはフェミニストでもあります。
    以降、ロワイヤルさんに対しては、Madame la Ministre と呼ぶことが慣例となり、彼女たちはその意味で一石を投じたってことになるわけですが、じゃあ presidentは? ってことになると、これはアカデミーフランセーズが「president に laをつけるのはフランス語としてあってはならないことなので、けしからーん」とまだ言ってるらしい。(いろいろ文献探してるんだけどうまくみつからず)。

    ま、そんな感じで最初の記事のほかにも、こんなのもあるねーってわけですわー。
    http://www.liberation.fr/politiques/2014/10/07/un-depute-persiste-a-appeler-sandrine-mazetier-madame-le-president-et-ecope-d-une-sanction_1116530



    でね。
    もう十分長くなっちゃったけど

    なんかこれ、面白いと思わない?

    日本のジェンダーフリーは

    「保母」じゃなくて「保育士」です
    「看護婦」じゃなくて「看護師」です

    という言葉の言い換えをしているわけなんだけど、それってよくよく考えると、

    「ほとんど女性がやってた職業を男性がやろうとしたときに、保母や看護婦じゃ困る」という発想からの言い換えなんじゃないの?

    私たち、なんか「保育士」って変わって男女差なくなったー! ってちょいいい感じに思ってたけど、よくよく考えてみたら、それって女性目線じゃなくて、男性のために言い換えたんだっけ?って見えて来る。

    たとえば「士」というのは、本来「立派な男子」という意味を持つ言葉だけれど、これがついている

    弁護士 税理士 鑑定士

    という職業に女性がついたとしても、なんら職業名に変化はないわけだし。

    le か la かをつば飛ばしながら激論している(らしい)フランス語では、


    職業名に「女」の冠詞をつけろ!!!!


    ってことがフェミニズムの一つの論点になっている。



    これまで女性が多かったために女性名になっていた職業名を、中世的な表現に替えてみな同じにしましょう。
    それがジェンダーフリー

    ってことと

    これまで男性名のみで語られていた職業名に、ちゃんと女性の冠詞をつけましょう
    それがジェンダーフリー

    ってことと

    なんかすごーく違う気がするのは私だけじゃろか。



    女性の権利が男性の権利に近づいて同権になるのか(同化)

    女性と男性ははっきりと別のジェンダーであることを明確にして、権利を配分するのか(識別)

    うーん。考え過ぎか>笑
    ま、ただ言葉の構造の違いといってしまえばそれまでなんだけど。
    そんなこと考えて、今日は面白かった。

    言葉っておもろいよ。
    同様に、今日は

    「個性的」

    とはどういうことなのか? という言葉の解釈についてもおもろいおもろいと思ったんだが
    それはまた長くなるのでまたの機会に。



     
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