びばひだひだ

2015.07.05 Sunday 21:10
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    お前の息子は友達と自習時間を抜け出してどこかに行ってしまったぞ
     

     
    秋の昼下がりに電話があり
     
    「どこか」
     
    と言ったってこの街に行く場所なんてほとんどないんだから
    そのうち帰ってくるだろと思っていたら
    思った通りその5分後に抜け出した全員がうちに戻ってきた
     
    よかったよかった
     
    先生、帰ってきたよー
    と電話したら
     
    何ふざけとんねん
    子どもも親も今すぐ学校に出頭せい、という
     
     

    おいらたちは従順だ
    ちゃんと出頭した、全員で。

     
    あとは
    地域で見守ってくださっているみなさんとか
    いつも心にかけてくださっている親御さんとか
    そういう人たちの期待にどんだけ背いたかということを
    トクトクと先生が入れ替わり立ち替わり現れて
    親切に教えてくださった
     
     
    シャツの裾が5センチ出てるじゃないか
    前髪が目にかかってるじゃないか
    夏休みに髪を染めただろう
    黒く戻したつもりかもしれんが、前より不自然に黒いぞ
    ばれてんだぞ、お前
     
    え、茶髪はダメだけど黒すぎてもダメなんか
     
     

    そんなことでこれまでも
    長いこと行ったり来たりを繰り返してきた彼は
     

    その日帰ってきたあと
     
    机の教科書を全部ビニールのひもで束ね
    制服をゴミ袋に入れて
    マンションのゴミ収集所に持っていき
     
    もう
    学校へは行かない
     
    と言った
     
     

    うーむ
     
     
     
     
    私はその夜、息子に気づかれないように
    マンションのゴミ捨て場に忍び込んで
    教科書と袋に入った制服を拾い
    駐車場の車の後ろの段ボールの中に隠した
     
    それで
     
    いいよ、もう行かなくて
     
    と息子に言ったのだった
     
     

    そして
    次の日の朝
     
    もう学校に行かないというので
    行かなくていいよと言いました
     
    と先生に電話した


     
     
    あれ
    確か中三の秋じゃなかったか


     
     
    今話せば、さらりとそれだけのことだけれど
    それはさほど
    簡単なことではなかった

     
    顔は笑っているつもりでも
    気持ちの中は嵐が吹いてたさ

     
     
    彼はそれからきっぱりと学校に行くのをやめ
     
    でも
    卒業式には
    私がゴミ捨て場から拾っておいた制服を着て出席して
     
    「おかん、あのときはありがとう」という反則な手紙を書いて
    私をごうごうと泣かせた
     
     
     
    簡単ではない時代は
    それからまだしばらく続いたわけだけれど。

     
     
    こないだ
    あのころの先生が私に言ったんだよ
     
     
    おかあさん

    いま自分の子どもが同じくらいの年になって
    よくあのときのおかあさんを思い出す
     
    おかあさん、私、おかあさんをすごく尊敬してるんだよ
    おかあさんは、私のお手本だよ
     
    って。
     
     

    なあ、息子よ
    かあちゃん
    先生に尊敬されちゃったよ
     
    えらいもんだよ
     
     
    それもこれも
    君のおかげだよ

     
    簡単ではない時間が
    君にもかあちゃんにも
    なんつうか
    心のひだひだみたいなもんを作ったんだ、きっと
     
    いや
    そう思わなくちゃやってらんねえだんが
     
     
    それでも
     
    今の君を見ていると
     
    ひだひだがいっぱいあるって
    悪くないよな
    なんだか知らんが
    お前、いま、いい感じで生きてるよな
    って
    思うんだ

     
    ひだひだは
    できるときは痛くて途方に暮れるけど
     
    あとになったら意外といいもんなのかもしれないな
     


    びば
     
    ひだひだ

     
     
    かあちゃんのはそろそろ
    しわしわだけどな
     
    category:日々のウタ | by:武蔵野婦人comments(0) | - | -
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