留学序章 50歳プロジェクト

2009.08.31 Monday 22:39
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    30歳になるとき。29歳の私は激しくあせった。
    仕事で何を残せているわけでもなかった。不完全燃焼の日々の中で、結婚はどうするのだ、子どもはいつ生むのだ、そもそもこれから先、お前はどうするつもりなのだという周囲からの声に押しつぶされそうになっていた。
    そして、30歳を迎えた誕生日の日、私は激しく落ち込んだ。
    30になってしまった。もう30なのだ。
    なんとかしなくちゃ、でもどうしたら?


    あの焦燥感は一体何だったのだろう。
    1990年代のあのころ、31で結婚した私は「晩婚」と言われ、34歳の出産は「高齢出産」だと周囲に心配された。24歳を過ぎた女性は「売れ残りのクリスマスケーキ」と揶揄された時代だ。何だったんだよ、ったく。
    時代は変わっていくのだ。31歳の結婚を遅いという人が、今どこにいる? 34歳で母子手帳に○高なんていうはんこを押す医者が、今どこにいる?
    今なら、あんな風に不安や焦燥を抱えることなく、私はもっと穏やかに30歳を迎えたかもしれない。とにかく私が30歳になったのはそんな時代だったのだ。

    それから10年が過ぎて、私は40歳になった。
    30歳のとき、この先39歳の誕生日を迎える時が来たら、私は同じようにあせったり、不安を感じたり、落ち込んだりするのかもしれない、と思っていた。年代が変わるとき、人は大きな切り替えポイントを乗り越える、衝撃のようなものを経験するのだ。きっとそうだ。

    ところが、実際に39歳になった私には、不安も焦燥感もなかった。40代は私の少し先で、たおやかに心優しく手招きをしていた。早くこっちにおいで。こっちはいいよ。ずっとずっとラクになるよ。そして、いいことがこれからたくさんあるに違いないよ。

    29歳の私と、39歳の私を大きく隔てていたもの。今思えば、それは先を歩く人たちの存在だったのだと思う。29歳の頃、私の前には結婚して子どもを生んで家庭に入った女性か、ルーティンワークの仕事をこなす少数の先輩女子社員がいるだけだったけれど、30代で仕事をやめたあとに出会った人たちの中には、私にとってロールモデルとなる女性たちがたくさんいた。40代っていいもんだな。彼女たちを見ていたら、40歳になるのはすごく楽しみだ。
    そう思いながら過ごした30代の先に待っていた40歳の誕生日を、私はともだちと盛大にお祝いをした。
    そして私は多くの国を旅して、多くの人に会い、むさぼるように映画を観て、コンサートや美術展に赴き、こつこつと働き、そして離婚をして必死に子どもを育てた。よい40代だった。

    そんな40歳の誕生日から、もう9年が経ってしまった。来年、私は50歳になる。そして、その50歳になる時を、40歳の時とはまた違った思いで待っている自分がいる。
    50歳はきっといいもんだ。50歳になるのはすごく楽しみ。
    でもそこにあるのは40歳になったときのようなわくわく感や幸福感とは違う、ある種の決意や覚悟を秘めた思いだ。まだまだ先は長く、先を行く人たちがたくさんいるのだとしても、人生を半世紀生きたら、残りの人生はもういつピリオドを打たれてもおかしくないのだ。50の声を聴いたとたんに先を急いで逝ってしまった人たちの顔を思い起こすにつけ、50歳を過ぎたら、自分の人生にケジメをつけなくちゃならんと思うようになった。

    自分より先にいる人をお手本にして勇気をもらってきた分、今度は自分があとに続く人に「50歳になるのが楽しみだ」と思ってもらえるようなロールモデルにならなくちゃいけない。
    50を過ぎてまだなお、「本当はあれがしたかったのに」とか、「もっとこうしておけば」「あのときああだったら」なんてかっこ悪いことを言う人間になりたくなかった。
    半世紀を一区切りに、やりたかったのに手をつけられなかったこと、忙しさや家族を理由に先延ばしにしてきたこと、勇気がなくて踏み出せなかったことに手をつけよう。

    47歳になった日に、私のそんな「50歳プロジェクト」が始まった。


    その50歳プロジェクトの筆頭にあるのが「フランス語を話せるようになる」だ。
    人生が終わる前に、一度でいい。流暢にフランス語をしゃべる自分を体験してみたい。フランス人とジョークを言って笑い合う自分の姿を見てみたい。なんの目的があるわけでもない、たったそれだけ。でもそれは、20代のときから私が心のどこかで夢見たまま、何一つ努力をしてこなかったことだ。50歳までにその最初の一歩でもいいから踏み出したいと思った。

    不思議なものだ。本当に一歩を踏み出そうと決意してみると、物事は何かと動き出す。ひょっこりとフランス語の学校が家からそう遠くない場所にみつかり、そこに通ううちに、そこに小さな留学プログラムがあることを知った。1週間だけ、フランスの田舎にホームステイをしながら語学を学ぶ。
    自分の暮らしのスタイルが確立してしまった40代の自分が、誰かの家にホームステイなんてできるんだろうか。そもそも、留学できるだけの語学力が今の自分にあるのか?
    少し前の自分だったら、最初の一歩は踏み出せなかったかもしれない。でも、これはなんといっても私の「50歳プロジェクト」なのだ。

    勇気を出して出かけたフランスのモンバールには、私の人生観をも変えるような体験がたくさん待っていた。
    これまで多くの国を旅してきたけれど、たぶん、それは単なる「旅」だったのだということを私は初めて思い知った。「暮らす」という目を持ってみて、はじめて見えてくるものがある。たった1週間だったけれど、当たり前の暮らしの中にあるたくさんの大切なことを、私はこの日々で学んだ気がする。
    これは私のそんな小さなフランス留学の覚書です。
    category:フランス留学 | by:武蔵野婦人comments(3) | - | -
    Comment
    50歳になる前「50歳プロジェクト」を立てられ、その筆頭項目がフランスの上達だったのですね。それを、即、実行に移されたところがいづみさんの凄いところだと思います。人生、易きに流されてきた自分にとっては、尊敬の念を抱かずにはいられません。
    いづみさんの「50歳プロジェクト」の第一歩の踏み出しに「頑張って!」と声援を送ります。
    モンバールでの滞在記、期待を持って読ませていただきます。
    • chieko
    • 2009/09/10 6:45 PM
    はじめまして。
    わたしは33歳になるんですが、結婚もしてないし子供も居なくて自由に動ける身ではあります。
    だから、動きやすいのは今だと思う一方でお金に余裕もなくフランスへ人脈もなく、一歩が踏み出せていません。

    フランスへのこだわりがあるわけではないんですが、フランスへの夢と憧れは強くあります。

    どうすれば、何をすれば、今のわたしで何ができるのか…とても悩んでるところにお姉さんの記事を拝見しました。
    なにか、頂けるアドバイスはないかと、藁をも掴む想いで連絡させてもらいました。

    返信もらえたら嬉しいです!
    • なみ
    • 2019/03/12 10:50 PM
    なみさん、コメントありがとうございます!

    お姉さん(笑)がこの記事を書いてから、はや10年経っていました。読んでいただいてありがとう。
    なみさんの「一歩」がどこにあるのかわかりませんが、一歩踏み出してみたあとの私が思うのは

    やってみる前は、高い壁のように見えたことも
    思い切ってやってみたあとに振り返ってみると
    かまぼこの板一枚ぐらいのことだったなー、ってこと。

    かまぼこの板一枚飛び越えるために、あんなに躊躇したたのかなーって思うけど、飛び越える前は本当に高い高い壁でした。

    人生はそのあとに、また高い壁があるんだけど
    一枚飛び越えてみれば、それもなんとか超えられちゃうんじゃないかって思えるようになった、っていうのが一番よかったことでした。

    いろいろ迷っていたときに、仲間が言ったこの言葉にも助けられました。

    「大事なのは、それが自分にできるのかどうかって考えることじゃない。
    それをしたいのかどうか、って自分に問うこと。
    やってみるって一度思えたら、そのあとのことはなんとかなっちゃう」

    「いつか」なにかしたいと思っている時期が長く私にもありましたけど、「いつか」はいつまでたっても「いつか」でしかなく。
    「なにか」も、いつまでたってお「なにか」のままなので

    よかったら思いつくまま、そのなにかに、いつかの期限をつけて、たくさん書き出してみたらどうかと思います。
    その中で、「やってみる」と思えたものを、勇気を出して飛び越えてみてください。きっと、それはあとでかまぼこの板一枚の高さになるはずです。
    エール送ります。
    • 武蔵野夫人
    • 2019/03/15 9:19 AM








       

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