留学初日 モンバールへの道

2009.08.31 Monday 22:37
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    7月18日(土)

    パリには何度も来たことがある。でも空港から一人で列車の旅をしなくてはならないというと、話は別だ。TGVの駅がどこにあるかもわかっているし、何度もヨーロッパを列車で旅したことがあっても、やはり緊張はする。行き先の違う列車に乗ってしまったらどうしよう。目的地を乗り過ごしてしまったら? お目当ての列車が遅れたり、トラブルがあったらどう対処したらいいんだ。こんな時は、生来の気の小ささが首をもたげる。ああ、肝っ玉ちっちゃええな、私。

    なるべく荷物を少なくするつもりが、一週間とはいえ留学しに行くのだという気負いが勝って、私のバッグの中にはPCと一眼レフカメラ、電子辞書からフランス語の動詞変換のテキスト類が詰め込まれている。スマートに空港を移動したいという思いとうらはらに、列車の時刻を確かめようとチケットを出そうとするだけで、スーツケースと大きなカメラバッグを手に大汗をかく自分がいる。情けない、かっこ悪い。いや、そんなことを言っている場合ではない。とにかくモンバールまでたどり着くまでは、なりふりなど構っていられるか。



    いつも思うのだが、パリの空港というのはどうしてこう殺風景なのだろう。CDGの国際線ターミナルは、今年に入ってちょっとはマシになったが、これだけの大都市の空港の中にある列車の駅には、長い待ち時間をつぶすためのレストランもカフェも、待合室もろくなものがない。不恰好にショルダーバッグにカメラバッグ、スーツケースを抱え込み、12時間の飛行機の旅で目の下にクマを作った状態で、ここでどうやって、2時間というタイムラグを過ごせというのだ。

    座る場所がみつからないので、仕方なく列車の時間が表示される掲示板が見える場所の壁に寄りかかって自分の場所を確保する。列車がどのホームから出発するのかは、この掲示板に頼るしかなく、2時間後に発車する私が乗る予定の電車の表示は、まだまだ出る気配すらない。
    一人旅は嫌いではない。気の合わない人と無理して数日行動をともにするぐらいなら、一人きりのほうがラクであるとも思う。それでもこんな時、「どこから出るんだろう」「このホームでいいのかな」なんて台詞を言い合える相手がいるだけで、どれだけ気がまぎれるかと思う。
    たった一人で異国の地に立つと、しゃべること、誰かとさもないことを確認しあうことが、日々の自分のこころをどれだけ支えているのかということに気付く。おしゃべりの力は偉大だ。ああ、おしゃべりがしたいぞ。
    とりあえず誰もいないんだよ、仕方ねぇ。「いったいいつになりゃ表示が出るんだよ」。自分に向かってぶつぶつ独り言を言いながら、TGVの駅の中を居場所を探して放浪する。



    パリからモンバールまでは、TGVで1時間ほどだ。何度来ても驚くのは、パリから列車に乗って30分もたつと、農地と広大な自然と小さな石造りの古い家々が立ち並ぶ田舎の景色が車窓に広がりだすことだ。
    日本人に比べて、フランス人はことあるごとに「田舎暮らし」の素晴らしさを強調する。「田舎より都会のほうが便利だし暮らしやすいでしょ?」と反論し続けてきた私だけれど、この国に来ると、「田舎」というものが何を指しているのかが、日本人のそれとは決定的に違っていることがわかる。ここにある「田舎」は、とてつもなく身近にある、とてつもなく豊かで広大なものだ。そんな田舎に、これから私は1週間滞在することになる。

    モンバールの駅には、クロディーンが迎えに来てくれていた。到着したのは夜の8時を過ぎていたが、この時間は夏ではまだまだ明るい。スーツケースを車に積み込み、案内してくれた彼女の家はこざっぱりと整えられた、古い修道院を改築した心地よいアパルトマンだった。ホームステイとはいえ、私の暮らす場所にはキッチンもシャワーも寝室も完備されていて、きっちりとプライバシーが確保されている。小さな部屋をひとつ与えてもらうだけだと思っていた私は、ここでちょっと元気を取り戻す。





     
     

    クロディーンが簡単な夕食を準備してくれた。今日はこれでゆっくり休んで、明日の9時からレッスンを始めるわねという。





    クロディーンはとても腕のよい料理人でもあるのだ、と日本でもさんざん耳にしてきた。初日の夕食を前に、それがまぎれもない事実だったことを知る。とはいえ、長旅で胃もくたくただ。お肉は半分だけいただいて、残りを冷蔵庫にしまってもらう。ブルゴーニュのワインまでいただいて、ほろ酔い加減になると、猛烈な眠さが襲ってきた。

    さて。あれほどおしゃべりに飢えていた私だったが、モンバールの駅に到着した瞬間から、私のおしゃべりはすべてフランス語で行われている。おしゃべりは日々の心を支えている、と前に書いた。でもそのおしゃべりをフランス語でずっとしなくてはいけないとなると?

    一週間の苦難はここから始まったのでした。
    category:フランス留学 | by:武蔵野婦人comments(1) | - | -
    Comment
    12時間の長旅の上に、2時間も待合室のないところで待ったとは苦行でしたね。私も一人旅でそんな経験がありましたが、そんなときは、友達と一緒だったらよかったのにと思いました。

    いづみさんが、これから一週間滞在なさるアパルトマン、素敵ですね!
    お部屋も明るい色調だし、キュイジーヌも使い勝手よさそうで・・

    クロディーンさんのお料理美味しそう!!
    • chieko
    • 2009/09/10 7:05 PM








       

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