わたしが小さかったころ

2016.04.08 Friday 22:59
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    わたしが小さかったころ
    サランラップはまだなかった
     
    残したおかずはどうしていたんだろう

    レースの傘のようなものを開いて
    残ったおかずの皿の上に乗せ
    引き戸のある戸棚にばあちゃんが入れていた記憶が
    うっすらあるようで、ほとんど覚えていない
     
    残ったおかずの皿にはサランラップをかけるものだ
    もう、そういうことだ


     
    わたしが小さかったころ
    電子レンジはまだなかった
     
    冷えたごはんはどう温めていたんだろう

    蒸し器でもわもわ湯気を立て
    ふきんをかけて茶碗を入れて
    温めたごはんを食べた記憶が
    うっすらあるようで、ほとんど覚えていない
     
    冷えたごはんは電子レンジで温めるものだ
    もう、そういうことだ


     
    わたしが小さかったころ
    うちにはシャワーはまだなかった
     
    どうやって髪の毛を洗っていたんだろう

    台所の小さな風呂焚き口から
    マッチでガスに火をつけて
    水を張った風呂桶をぼんぼんと沸かして
    ひしゃくで湯を汲んで髪を洗った記憶が
    それはかなり確かにあるようで、もうすっかり忘れてしまった
     
    髪はシャワーで洗うものだ
    もう、当たり前のように、そういうことだ

     
     
    私が小さかったころ
    ばあちゃんがいて
    じいちゃんがいて

    ときどき戦争の話を聞かせてくれた
     
    正月になると
    おじちゃんとおばちゃんといとこが集まって
    すりすりと手を叩きながら軍歌や民謡を歌った
     
    じいちゃんが逝き
    ばあちゃんが逝き

    ごはんのかわりにさつまいもを食べたこととか
    やっと手に入った米も、大根を入れてかさ増しして炊いたから
    ちっともうまくなかったんだよう と話す人はいなくなり
     
    この国はもう戦争はしないのだ
    もう、当たり前のように、そういうことだ


     

    思っていた
     
    はずなのに

     
    なにやらおかしいなあ
     
    おい、おっちゃんたち
    サランラップやレンジやシャワーより
    もっと前に戻ってどうしようってんだ
     
     
     
    手に入れたらそれが当たり前になり
    その前のことを忘れ
     
    人っておめでたいもんやなあ

     
    私はサランラップ、
    ないと困るよ

    じいちゃんが軍服来てスマトラ島で敬礼してた写真みたいなこと、
    息子にさせる気なんて

    さらさらないんだからね。
     
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    きみがうまれた日

    2016.04.03 Sunday 23:50
    0
      ちょこちょこ書き足している日々のうた。
      またぼちぼちアップしていこうと思ってますー。
      まあ、適当に受け流してくださいな>笑

      =========================

      きみがうまれた日




      きみが生まれた日
      遠い空のどこかで彗星が流れ
      サッカーのワールドカップの会場で
      パバロッティが「誰も寝てはならぬ」を歌い
      それを聞きながら
      昨日と同じ明日がまた
      普通にやってくるのだと思っていた私は
      突然股の間に熱い水が流れて動揺した
       
      我が家の駐車場にいつもの車はなく
      代車で来た軽自動車のうしろで
      タオルを巻いて、毛布をかぶって
      固くて薄っぺらい座席がかたかたと
      道路の振動を伝えてくるのを
      冷たい夜の暗さの中で聞いていた
      あの時の私はまだ

      ただ「私」という名前の不安定な生き物でしかなく
      これから自分に起こることも
      たいしてよくわかっていなかった

       
      きみが今、私の背を越え
      もうずっと前からそこにいるように食卓につき
      大人の声で私を呼ぶ声を聞けば

      あの夏の日の激烈な痛みは
      こうして君の母としてここにいるための
      ほんの取るに足らない
      小さな儀式だったのか、と思う

       
      きみがこの世にやってきてから
      育児という試行錯誤のかすり傷や
      ぶつかり合うこころの打撲の跡に
      心配や不安の糸が絡みつきこんがらかり

      これでいいのか、と何度も己に問いながら
      あれから何年もかけて
      もう子育ても終わりに近づいた
      やっとこのところ
      私は「母」という生き物になれたような気がするんだ

       
      母になるには
      たくさんの痛みが必要で
      かあちゃんを続けるのは、とても痛い仕事だった

      でも
      振り返ってみれば
      その痛みには非現実的な記憶しかなく
      幼いころの笑顔も声もおぼろげになっていく今
      残ったのは
      誇らしいほどのきみへのいとおしさだ

       
      よくなれたよなあ
      「母」に。
       
      きみの
      母に。
       
      なあ

      たまには、かあちゃんも
       
      ほめておくれ。
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      びばひだひだ

      2015.07.05 Sunday 21:10
      0



        お前の息子は友達と自習時間を抜け出してどこかに行ってしまったぞ
         

         
        秋の昼下がりに電話があり
         
        「どこか」
         
        と言ったってこの街に行く場所なんてほとんどないんだから
        そのうち帰ってくるだろと思っていたら
        思った通りその5分後に抜け出した全員がうちに戻ってきた
         
        よかったよかった
         
        先生、帰ってきたよー
        と電話したら
         
        何ふざけとんねん
        子どもも親も今すぐ学校に出頭せい、という
         
         

        おいらたちは従順だ
        ちゃんと出頭した、全員で。

         
        あとは
        地域で見守ってくださっているみなさんとか
        いつも心にかけてくださっている親御さんとか
        そういう人たちの期待にどんだけ背いたかということを
        トクトクと先生が入れ替わり立ち替わり現れて
        親切に教えてくださった
         
         
        シャツの裾が5センチ出てるじゃないか
        前髪が目にかかってるじゃないか
        夏休みに髪を染めただろう
        黒く戻したつもりかもしれんが、前より不自然に黒いぞ
        ばれてんだぞ、お前
         
        え、茶髪はダメだけど黒すぎてもダメなんか
         
         

        そんなことでこれまでも
        長いこと行ったり来たりを繰り返してきた彼は
         

        その日帰ってきたあと
         
        机の教科書を全部ビニールのひもで束ね
        制服をゴミ袋に入れて
        マンションのゴミ収集所に持っていき
         
        もう
        学校へは行かない
         
        と言った
         
         

        うーむ
         
         
         
         
        私はその夜、息子に気づかれないように
        マンションのゴミ捨て場に忍び込んで
        教科書と袋に入った制服を拾い
        駐車場の車の後ろの段ボールの中に隠した
         
        それで
         
        いいよ、もう行かなくて
         
        と息子に言ったのだった
         
         

        そして
        次の日の朝
         
        もう学校に行かないというので
        行かなくていいよと言いました
         
        と先生に電話した


         
         
        あれ
        確か中三の秋じゃなかったか


         
         
        今話せば、さらりとそれだけのことだけれど
        それはさほど
        簡単なことではなかった

         
        顔は笑っているつもりでも
        気持ちの中は嵐が吹いてたさ

         
         
        彼はそれからきっぱりと学校に行くのをやめ
         
        でも
        卒業式には
        私がゴミ捨て場から拾っておいた制服を着て出席して
         
        「おかん、あのときはありがとう」という反則な手紙を書いて
        私をごうごうと泣かせた
         
         
         
        簡単ではない時代は
        それからまだしばらく続いたわけだけれど。

         
         
        こないだ
        あのころの先生が私に言ったんだよ
         
         
        おかあさん

        いま自分の子どもが同じくらいの年になって
        よくあのときのおかあさんを思い出す
         
        おかあさん、私、おかあさんをすごく尊敬してるんだよ
        おかあさんは、私のお手本だよ
         
        って。
         
         

        なあ、息子よ
        かあちゃん
        先生に尊敬されちゃったよ
         
        えらいもんだよ
         
         
        それもこれも
        君のおかげだよ

         
        簡単ではない時間が
        君にもかあちゃんにも
        なんつうか
        心のひだひだみたいなもんを作ったんだ、きっと
         
        いや
        そう思わなくちゃやってらんねえだんが
         
         
        それでも
         
        今の君を見ていると
         
        ひだひだがいっぱいあるって
        悪くないよな
        なんだか知らんが
        お前、いま、いい感じで生きてるよな
        って
        思うんだ

         
        ひだひだは
        できるときは痛くて途方に暮れるけど
         
        あとになったら意外といいもんなのかもしれないな
         


        びば
         
        ひだひだ

         
         
        かあちゃんのはそろそろ
        しわしわだけどな
         
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        明日 ……日ウタ4

        2015.06.28 Sunday 22:25
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          明日は来るのかな

          ほんとうに
          来るのかな
           
          このまま目をつぶって暗闇の中に落ちていったら
          そのまま朝が来ない
          それを
          「死ぬ」というのです。


          幼い私に教えたのは母だった。
           
          なんでそんなことを教えたのだ。
           
          あれから私は
          夜になるたびに
          二度と来ない朝を思っておびえ
          50歳をすぎた今になっても
          まだ
          闇の中で小さく緊張する。

          毎日小さく死んで

          生きていることを知り安堵して
           
          でも
           
          繰り返し、繰り返し
          明日は来るのだろうか
          本当に
          来るんだろうかと
           
          3歳のときからずっとずっと思って生きている。
           
          今日のつづきに明日が来るというのは
          もしかしたら
          奇跡のようないことなのかもしれない。
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          誕生日……日ウタ3

          2015.06.12 Friday 00:08
          0


            息子が生まれて
            たくさんのお祝いが届いたとき


             
            今日はあなたがおかあさんになった日
             
            だから私は
            あなたにお祝いをします
             

             
            刺繍が入った真っ赤なブラウスを私に贈ってくれた人がいた

             
            淡い赤ちゃん色に溢れた贈り物の中で
            たった一つ混じったまばゆいその赤色は
            私の流した血の色であり
            痛みのあとの鮮烈な「私」の存在の色として
            誇らしく浮き上がって見えた

             
            それはなんと
            優しい愛に満ちた贈り物だったか

             
             
            誕生日は
            誰かが生まれた日であるだけではなく
             
            誰かが母になり、父になり
            祖母と祖父がつくられ
            兄や姉という存在が生まれた日

             
            おめでとう

            おめでとう
             
             
             
             
             
            君の年だけ前の、今日のこの日
            この世に生まれてくれてありがとう
            君が生まれてくれたから
            僕は君に出会えて
            いま
            こうして一緒にいることができるんだよ
            ありがとう
            生まれてくれて、ありがとう
             
             
            産んでくれと頼んだわけじゃない、と
            やり場のない言葉を振り回し続けた10代の私から
             
            誕生日なんてめでたくもなんともないさ、と
            過ぎ去る時間を無造作に投げやっていた30代までの私が
             
            その時から
            まぎれもないただの「私」となり
            自分自身を憎むのをやめた

             
            それはなんと
            優しい愛に満ちた言葉だったか

             
             
            誕生日は
            いつもはかくれんぼしていて見えなかった
            愛を知る日
             
            世界の根っこは愛でできていると
            そんなことを信じられる気持ちになれる日
             
             
            おめでとう

            おめでとう
             
            誰かの誕生日


             
            ありがとう

            ありがとう
             
            みんなの誕生日

             
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            たくない ……日ウタ2

            2015.06.07 Sunday 11:09
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              したくないやりたくない
              いきたくないはなしたくないかきたくない

              何もかもがいやになって
              何もしたくなくなって

              すべてのものから逃げ出したくなって
              自分なんてなんの価値もないんだ

              もうこのままいなくなってしまっても
              世界はただ変わらず回り続け

              すぐに忘れ去られていく
              わたしは
              そんな取るに足らない存在です

              ごめんなさい
               

              ああ
              したくないやりたくない
              いきたくないはなしたくないかきたくない


              繰り返しているうちに
              そもそも

              やりたくないのは
              やらなくてはいけないことがあるからなのだ
              ということにたどりつく。
               
              やらなくてはならない役目があるから
              やりたくない、と言えることの贅沢は
              本当にやることが何もなくなってしまって
              はじめてわかることなのかもしれないよ。
               
              そうして、こんな寒い雨の日
              したくないことをして
              やりたくないことをやり

              いきたくない場所に出向き
              はなしたくない人とはなして
              かきたいわけではなかったことを、かいている。

               
              したいことだけをしている人っているのかな
              いきたい場所だけにいって、はなしたい人とだけはなして、かきたいことだけをかく。

              あーーー

              そんな人がもしいたら、私はあまり友達にはなりたくないなあ。

               
              さて、したくないやりたくないやだやだやだ


              駄々をこねながらかきますか。
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              ちゃちゃっとな……日ウタ1

              2015.06.05 Friday 00:11
              0
                2、3年前から、たまに書き溜めている散文のような、詩(というのはおこがましいわなぁ)のような、何やらわからんが書き散らかしとるもんを、時々アップしてこうかなーと思います。こっぱずかしいので「日々のウタ」とお茶を濁したタイトルにしてみました。
                で、まぢに取り組むのもなんだかこっぱずかしいのでこんなところから。
                これはいつ書いたんだっけなああ。ちゃちゃっと、って変な言葉だなーって思ったんだと思うわー。


                ============================================
                ちゃちゃっとな

                 ============================================
                 
                お夕食の支度をしたついでに
                ちゃちゃっと準備しておけばいいんです

                ほらこうしてお野菜を切っておけば、翌日のお味噌汁がグンとラクになりますよ

                テレビで満面の笑みでお料理の研究家っていう人が言ってる
                 

                ついでにちゃちゃっと、な
                 
                そうか
                世の中にはそんなに
                翌日の味噌汁のことを先取りして考えて
                ちゃちゃっとできる人がいるのか
                 

                お風呂に入ったついでにちゃちゃっと掃除をしたり
                買い物から戻ったついでに
                玄関をちゃちゃっと掃除をしたり
                郵便物もちゃちゃっと整理するといいらしいのだが
                そんなに一日中ちゃちゃっとしている人が家にいたら
                さぞかし面倒くさかろう
                 
                 
                そもそも
                 
                ちゃちゃ
                 
                ってなんだ?


                 
                ちゃちゃ。



                 
                いま自分がしていることが「ちゃちゃ」であることに気づいて、思わずぷっと吹き出してしまったりはしないのか。

                そんなことなど考えたこともなく、まじめに
                なんでもちゃちゃっとできる人は
                ちゃちゃっとできない人が
                さぞかし歯がゆかろう


                 
                でもさ
                ついでにちゃちゃっと準備したことが
                役に立たないことのほうが人生には多いのよ

                 
                 
                たぶん私は
                ちゃちゃっと星人とは別の星に住んでる
                ちゃちゃっと星に住むみなさんには
                日々ちゃちゃっとがんばっていただきたいものである
                category:日々のウタ | by:武蔵野婦人comments(0) | - | -

                Calender
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                • なんでフランスのごはん作りはラクで、日本のごはん作りは面倒だと感じるんじゃろ
                  武蔵野夫人
                • お客様が神様の日本で、最近仕事で折れることが増えたのは、なんかとっても単純な理由だったことがわかった件
                  武蔵野夫人
                • フランスと日本のデッサン教本のヌードの扱いがあまりに違う件。なんで日本は女だけ脱がすんや!?
                  武蔵野夫人
                • なんでフランスのごはん作りはラクで、日本のごはん作りは面倒だと感じるんじゃろ
                  WhiteDragon
                • お客様が神様の日本で、最近仕事で折れることが増えたのは、なんかとっても単純な理由だったことがわかった件
                  Yukie
                • フランスと日本のデッサン教本のヌードの扱いがあまりに違う件。なんで日本は女だけ脱がすんや!?
                  東旺
                • なんでフランスのごはん作りはラクで、日本のごはん作りは面倒だと感じるんじゃろ
                  武蔵野婦人
                • なんでフランスのごはん作りはラクで、日本のごはん作りは面倒だと感じるんじゃろ
                  武蔵野婦人
                • なんでフランスのごはん作りはラクで、日本のごはん作りは面倒だと感じるんじゃろ
                  ななし
                • なんでフランスのごはん作りはラクで、日本のごはん作りは面倒だと感じるんじゃろ
                  日本人
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